白石 建先生
東京歯科大学市川総合病院整形外科教授

本書は、私を含めた多くの脊椎・脊髄外科医が尊敬し、この分野の世界的第一人者である方の筆によるものでありながら、これまでに出版された権威ある手術書とは趣の異なった大変ユニークなものです。序文では、本書に記載されていない術式をその理由とともに明らかにしていますが、脊椎・脊髄外科医が日常の診療で遭遇する疾患の診断と治療法は基本から応用まで、ほぼすべて網羅されています。しかも、その内容の一つ一つが自身の経験に基づく、詳細を極めたものであり、これまでに筆者が実感し、確信したこと以外は徹底的に排除されています。各術式の症例数と合併症を含めた手術成績も提示され、筆者がこの手術書を執筆する目的、勇気、責任感の強さを明確に物語っています。各術式についてのきめ細やかな記述は、初心者でも十分に理解できる平易な言葉で書かれていて、かつて発展途上であった自身の視点を今も忘れずに持ち続けている筆者ならではのものと感じます。特にイラストは質・量ともにすばらしく、術式の詳細がさらに理解しやすくなっています。完成に至るまでに筆者とイラストレーターとの間で行われた妥協なき戦い？をうかがい知ることができます。
本書は、患者の利益を最優先することが必定となった現代の医療現場で働く若き脊椎・脊髄外科医の皆さんには必見の手術書です。なぜなら、本書は手術書という技術の本でありながら、それに留まりません。その隅々に「患者本位」の姿勢を貫く筆者の人間性が感じられるからです。患者さんが真の満足を得るまで決してあきらめることなく、時には、最善を尽くして手術を担当した外科医としては受け入れ難い結果に対しても、真正面から向き合い、それを謙虚に受け入れ、分析し、改善法を模索し続け、浮かんだ考想の安全性を検証し、最後にその考想を勇気を持って次の手術に反映させる、このような長い間の筆者の努力とあくなき探究心が行間から溢れ出ています。これから脊椎・脊髄の臨床に意欲を持って取り組もうとする若い外科医は、この手術書によって大いに勇気づけられることでしょう。そして、筆者が一流の域に達しながらも、それに満足することなく、術式に工夫を加え、より侵襲の少ない優れた術式を開発した背景に、このような筆者の人間性を読み取ることと思います。
本書は指導医の立場である私自身にとっても、臨床の場面で疑問を感じたときはいつでも読み返したくなる大切な参考書です。私と臨床をともにする若い脊椎・脊髄外科医にも是非読んでもらい、彼らと一緒に井須豊彦先生の神髄を勉強させていただくつもりです。